労災保険の給付申請の実務において、仕事中の事故発生などその原因と結果の関係が明確な場合、保険給付が問題になることは多くはありません。指定様式に必要な情報を記入し、必要に応じて添付書類を提出すればスムーズに給付されます。しかし、因果関係が必ずしも明確でない場合には、労災か否かについて判断が分かれることがありえます。
特に、脳血管疾患、心臓疾患については、発症と原因の因果関係の判断が難しくなることが多くあります。このため、脳・心臓疾患については、一定の認定基準が示されています。以下のケースで、業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患を発症した場合には、業務に起因する疾病として取り扱うこととされています。
①長期間の加重業務
→発症前の長期間(発症前おおむね6か月間)にわたって、著しい疲労の蓄積をもた
らす特に過重な業務に就労したこと(発症前1ヵ月におおむね100時間又は2か月な
いし6ヵ月にわたって、1ヵ月あたりおおむね80時間を超える時間外労働をした場合、
業務と発症との関連性が強いと評価できる)
②短期間の加重業務
→発症に近接した時期(発症前おおむね1週間)において、特に過重な業務に就労した
こと
③異常な出来事
→発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にしうる異
常な出来事に遭遇したこと(極度の緊張、興奮、恐怖など人の生死に関わるような
重大事故や災害等)
脳・心臓疾患は、一般的に生活習慣や遺伝等により発症することが多いとされていますが、仕事が特に過重で発症した者が、以上の3つのケースに当てはまる場合、労災と認定される可能性が高まります。
特に、時間外労働の目安として示されている時間に留意する必要があります。100時間を超える時間外労働は、労災認定基準にかかります。状態的に80時間を超える時間外労働も同様です。一般的に、「過労死ライン」といわれるものです。この基準を無視(若しくは知らず)長時間労働を常態化させ、結果として労働者が脳・心臓疾患を発症してしまった場合、労災と認定される可能性が高くなるだけでなく、安全配慮義務違反や使用者責任が問われる場合には、労働者又は遺族から、使用者に対する損害賠償請求へとつながる可能性があります。
事業主は、労災保険からの給付によって、労働基準法上の補償を免れることはできますが、民事上の訴訟リスクを理解しておかなければなりません。
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脳・心臓疾患の労災認定基準について、沖縄県那覇市の社会保険労務士、仲宗根隼人が解説しました。労災保険に関するご相談は、アクティア総合事務所にお気軽にお問い合わせください。